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長尺シート(タキストロン)の水たまりを解説

外階段や外廊下の改修工事で、長尺シート(タキステップ、タキストロン)の工事をした後に「水たまり」が発生することがあります。工事前はこんな水たまりはなかったのに、なぜこのような状況が発生したのか・・を、解説します。

タキストロンの水たまり

水たまり発生までの流れ(イメージ図)

長尺シート(タキステップ、タキストロン)は、老朽化した外階段や外廊下の鉄骨腐食(サビ劣化)の抑止に役立ちます。老朽化した床面モルタルのヒビ割れなどから雨水が浸入して、下のデッキプレートがサビ腐食する問題を阻止できるからです。

また、築年数の経過した建物の外廊下では、床面モルタルの経年劣化が本来の水勾配を保てず不陸(ふりく)と呼ばれる「床面が水平ではない状態」になっていることがあります。

デッキプレートのサビ腐食1

ここに長尺シート(タキステップ、タキストロン)をモルタルの上から敷設します(事前の下準備はいろいろあるのですが後述します)。

長尺シートは厚み2.5mmの強固な複層シートです。今まで床面モルタルに浸入し放題だった雨水はデッキプレートに浸透できなくなります。雨水は逃げ場を失って不陸の低い部分に停滞します。

廊下を保護する長尺シート

逃げ場(浸透するところ)を失った雨水が停滞するとどうなるのか・・・?ズバリ、これが「水たまり」です。

新築ならともかく、築年数の経った建物の改修工事では老朽化した鉄骨下地や、モルタルの経年劣化による不陸、つまり不自然な水勾配やヘコミができていることが多いです。この「へこみ」の部分に雨水が貯まるから「水たまり」になります。

これが長尺シート工事後に起こり得る水たまりの流れです。

長尺シートの水たまり

左官工事で水たまりを回避できるけど・・

床面の歪み(不陸)の問題を解消する方法は左官工事です。

廊下の床面全体に左官工事をして勾配をつけ直す方法もあれば、「バンカー」のように部分的に凹んでいるところに密着性の高いモルタル(カチオン系モルタル)を施して埋める方法もあります。この作業を行えば床面の不自然な水勾配が解決するかもしれません・・が、懸念もあります。

廊下床のモルタル左官工事

(懸念1)全体に左官工事をすることで、長尺シートと合わせて床面が1cm以上高くなることがあります。ドアの位置が低いなど、廊下の設計によっては床面が上がることで利用が困難になることがあります。

また、配管などの室外設備や、施工場所に洗濯機などがある場合(排水工事も考えられる)など、別の解決ポイントが増えたり、これに応じた工事手間や工事コストが必要になります。

(懸念2)全体に左官工事をすると、増量されるモルタル荷重が鉄骨にかなりの負荷をかけます、鉄骨のダメージ具合はによっては、このモルタルの荷重が鉄骨に負担をかける場合があります。

(懸念3)「バンカー」のような部分的な凹みをモルタルで充填しても、充填深さの浅いところでモルタルの密着性が弱く、「モルタルの剥がれ」が生じれば、上から長尺シートを敷いても懸念はそのままです。現在では薄い凹みでも密着するモルタルがありますが留意すべき懸念は残ります。

左官工事を否定しているのではありません。水たまりを回避する選択肢です。しかし、鉄骨補修工事の主目的である「入居者様の安全確保」「鉄骨設備の延命」のための必須項目ではありません。

水たまりを解消するための工事費用と新たな懸念に取り組まなければならず、設定された維持年数を考えたときに、工事費用のバランスに異なる課題を生むかもしれません。

長尺シート(タキストロン)のメリットやデメリットについて解説しているページもあります。

この記事を読んでいただきたい方: タキ...

実際に左官工事を含めた改修工事の例もあります。

アパート共用廊下の補修工事例を解説します...

それでは、実際に長尺シートを含めた外廊下の鉄骨補強工事について、下記にご紹介します。

長尺シート工事の流れ(鉄骨の延命工事)

アパート外階段

アパートの外階段です。階段を上がったところに廊下があります。

廊下の床面モルタルの劣化

廊下の様子です。床面のモルタルの片側が黒ずんいますね。水勾配や不陸(ふりく)によって雨水が一カ所に停滞して、モルタルに苔が生えたりします。また、周辺の鉄骨が常に湿気を含んだ状態になるのでサビ腐食の温床にもなります。結果、鉄骨廊下の強度ダウンにつながります。

廊下の床モルタルの凹み

床面の低くなっている部分をできるだけ矯正します。廊下の下からジャッキアップ作業を行い、水勾配の修正を試みます。

鉄骨廊下のジャッキアップ

工具を使って廊下を下から押し上げながら鉄骨梁(てっこつばり)を増設します。さらに、腐食したデッキプレートも部分的に補強カバーを溶接します。構造を完全に矯正することはできませんが、勾配の修正と、鉄骨の溶接補強を兼ねた効率的な工事です。

既存防水膜の撤去

ふたたび廊下の床面。劣化した防水皮膜をできるだけ除去していきます。場所によっては工具を使いつつ慎重に工事を進めます。

床面モルタル補修

大きな床の凹みや欠落については部分的にモルタル補修をします。

アパート廊下長尺シート

下地調整の工程が終わったら長尺シートを施工します。(壁側の立ち上がりはウレタン防水)以上が、廊下の長尺シート工事の流れです。

鉄骨の延命(人的被害の回避)への選択と集中

今回の工事には大切な目的と手段が2つあります。目的とはズバリ「入居者様の人的被害の回避」と「鉄骨寿命の延長」です。

手段の1つは「鉄骨補強(延命)」です。腐食した鉄骨を溶接補強して強度維持を目指します。2つ目の手段は、補強された鉄骨をへの浸水をブロックして「腐食原因を抑える」ことです。

参考:階段鉄部への浸水経路をブロックするのはタキステップが一番です

この記事を読んでいただきたい方: 外階...

限られた工事予算の中で優先すべき内容に工事費用を集中して、付帯する懸念(水たまりなど)は、予算や鉄骨寿命と天秤にかけて考えていくことをお薦めします。ご心配の場合はご相談ください。

床面全体への左官工事例もあります。

アパート共用廊下の補修工事例を解説します...

おまけ

工事の途中で廊下の鉄柱の根元に小さな穴を空けた写真です。勢いよく水が飛び出していますね。・・これは柱の中に貯まっていた雨水です。

鉄柱から水

ぱっと見では元気そうでも、鉄骨は経年劣化で見えないSOSを発しているかもしれません。鉄骨補修のお問合せをお待ちしております。