この記事を読んでいただきたい方:
鉄骨廊下や階段の錆びを発見しての原因や危険性について知りたいオーナー様、錆びの補修方法にはどのような選択肢があるのか、補修費用やどのくらいの工事が必要なのか調べているオーナー様に役立つ記事です。
外廊下デッキプレートの錆びを放置すると、床の落下事故につながる危険が。オーナー様が知っておくべき、錆びの原因から「溶接補強」「鉄部塗装」「耐水措置」まで、状況に応じた補修方法と優先順位を分かりやすく解説します。
目次
外廊下のデッキプレート鋼板が錆びる
外廊下や階段の床を見上げると、波状(デコボコ形状)の鉄板が使われているのを見たことがあると思います。これは「デッキプレート鋼板」と呼ばれるもので、厚さ1.5mmほどの薄い鉄板でできています。このプレートの上にモルタルが打設されて、廊下の床が作られています。
経年劣化によってデッキプレートが錆びてくるのは避けることができません。放置すると居住者の人的被害(事故)に発展する可能性があります。
この記事では、錆びの原因から、状況に応じた具体的な補修方法まで、オーナー様が知っておくべき情報を分かりやすく解説します。
錆びの原因と放置するリスクについて
外通路デッキプレートが錆びる原因について、稚拙で恐縮ですがデッキプレート錆びのスケッチを描きました。
デッキプレートが錆びる大体の原因は、床のモルタル内部への浸水(湿気)です。劣化した床表目のヒビや隙間から浸水して、デッキプレートが常に湿気がこもる状態になると腐食が進行します。錆びを放置すると、単に見た目が悪くなるだけでなく、以下のような重大なリスクを招きます。
- 構造部への腐食拡大: デッキプレートの腐食が、廊下の梁や柱などの主要な構造部にまで達する可能性があります。構造部が腐食すると崩落事故の要件を満たします。
- 床の落下: 腐食が進行するとデッキプレートが強度を失って、最悪の場合、床が抜け落ちる事故に発展することがあります。
- 損害賠償トラブル: 賃貸物件の床の落下事故により居住者様が怪我をすれば、オーナー様は多額の損害賠償を求められることになってしまいます。
参考記事:老朽アパート:2階外廊下・床が抜け落ち(kyoto-seikei)
これらのリスクを避けるためにも早期の対策が不可欠です。下記より主要な補修工法を3点解説します。どれも延命には重要な工法で、得られる効果も別々。互いが補完し合うことで延命補修が成立します。
補修工法その1「溶接補強」
腐食がかなり進んでおり、デッキプレートの強度が失われかけている場合に行うのが溶接補強です。上記スケッチの赤いところが錆びて弱っているところ、緑のところが増設すつ鉄骨となります。
- 内容と得られる効果: 鉄骨梁を増設するなど、腐食したデッキプレートを下から支えることで、物理的に強度を回復させ落下のリスクを回避します。
- 特徴: 既存の鉄骨構造と新しい鉄骨を現地で溶接で組み合わせる技術が必要で、補修工法の中でも高い費用の工事です。腐食が軽度な場合は不要なケースもあります。
既存の鉄骨と、新しい鉄骨(梁)を現地で溶接固定することで、通路を下から支える新たな構造梁を増設します。
この工事でデッキプレートの欠落リスクを回避します。
補修工法その2「鉄部塗装」
鉄板を腐食から守るための最も基本的なメンテナンスが鉄部塗装です。溶接作業が終わったあと、補強状態を維持するために鉄部に塗膜でコーティングします。
- 内容と得られる効果: 鉄板の表面に塗膜を形成し、空気や湿気に触れて酸化するのを防ぐことで錆びの進行を抑制します。
- 特徴: 塗膜の寿命はおよそ8年前後。この周期で塗り替えることで、デッキプレートの寿命を大幅に延ばせます。延命塗装では既存鉄骨も含めて塗装をするため、内側から錆び垂れが出るなど、新築塗装とは仕上がりに差が出ます。
塗膜の寿命は鉄部の場合8年前後です。「色がついてるから安心」ということではありません。塗膜は資材を劣化から守るもので、その能力を失っていくのが8年前後です。
何十年も塗装していない鉄骨錆びは、錆転換処理(赤さびから黒さびに変える)をしてからでないと塗膜が乗らないことがあります。
ちなみに、デッキプレートは溶融亜鉛メッキを施されていることが多く、塗膜の密着性に懸念があります。腐食状況によってはケレンや下塗りなどの下処理をしっかりした上で塗装をすることをお勧めします。
補修工法その3「耐水措置」
錆びの根本原因である「湿気」を防ぐための補修が耐水措置です。
- 内容と得られる効果: 床のモルタルの上に長尺シートなどを敷設して浸水(湿気の侵入)を防ぐことで、デッキプレートへの水濡れを防ぎ、腐食原因を物理的にシャットアウトします。
- 特徴: 長尺シートは10年以上効果が持続します。ただし、シートが傷んだり、下地の状態が悪かったりすると効果が薄れます。また、長尺シートの端部にシーリング材が破断すると浸水が再開します。定期的な点検が必要です。
外廊下に長尺シートを敷設しています。端部の緑色の部分はシーリング処理をするための養生です。製品の長持ちのためにも犬猫の糞尿や薬品類はシート劣化の原因となりますのでお気をつけください。
長尺シート敷設前の処理として線防水やベンチレイシート、品種やグレード(3S工法やRSタイプ、ジョイント溶着など)など、用途や予算に合わせて多くの選択肢がありますが、安全性と予算のバランスを見ながら考える必要があります。
結局どこまでやればいい?補修の取捨選択
補修方法として「溶接・塗装・耐水」があることはご理解いただけましたでしょうか。うーん、でもどこまでやればいいんだろう?とお悩みだと思います。「どこまで補修すればいいか?」は、建物の状況や今後の維持計画によって変わります。
- 建物の維持計画: あと数年で建て替えを予定しているのか、長期的に使い続けるのかによって必要な補修の範囲は異なります。費用をかけるほど延命効果を得ますが、過度に補修して建物より長寿になっても意味がありません。
- 腐食の軽度な場合: 軽度な腐食であれば全ての補修を行う必要はありません。残り数年の維持で良いというオーナー様もいらっしゃいます。その場合は溶接工事のあとの塗装はオーナー様ご自身がやってしまう・・ということもありました。
- 補修の順番: 補修を複数組み合わせる場合、「溶接補強」→「鉄部塗装」→「耐水措置」の順で行います。耐水措置から始めてしまうと溶接や塗装の作業に支障が出るためです。また、塗装やシートだけが終わっている現地ではほぼ最初からやり直すことになりかねません。
建物の状況や予算に応じて最適な補修方法を見つけるためには、専門店への相談が最も確実です。もちろん、ご予算や腐食程度によっては自分で補修できることもあります。参考にDIYで行う鉄錆び補修のページがあります。
参考:鉄骨錆びの補修DIYはどこまでできる?どこから業者の出番?
デッキプレートはどの程度傷んでいるのか?メンテナンスはどれだけしてきたか?あと何年使うのか?を考えるときに、その補修範囲(どこまで工事を絞るか)が決まってくると思います。
オーナー様の諸事情を踏まえて、費用の無駄がない補修工事をしてください。小さな施工店ですが弊社は鉄部補修工事を専門としています。お気軽にお問い合わせください。
要約Q&A
Q:外廊下のデッキプレート鋼板が錆びる理由は?
A:廊下のモルタル床面(劣化によるヒビや隙間)からの浸水が主な原因です
Q:デッキプレートの補修工法とその効果は?
A:溶接工事(強度復旧の効果)、塗装工事(補強状態維持の効果)、耐水工事(腐食原因の抑止効果)が主要な工法と得られる効果です
Q:デッキプレート補修工事の費用や範囲は?
A:腐食状況や維持年数によって補修範囲を決めます。丸ごと交換は完璧な解決策ですが経年物件では過度な対処になるかもしれません。また、補修費用は交換工事の半額?3分の1?くらいでないと費用対効果が得られません。
Q:デッキプレートの補修を自分でもできる?
A:ダメージによるかと思います。詳しくは「鉄骨錆び補修のDIY」をご参照ください