この記事を読んでいただきたい方:
築古(中古)建物を所有のオーナー様で、「近いうちに発生するであろう鉄骨階段の補修工事」について、費用対効果を重視し、賢い選択をしたいと考えている方向けの記事です。
鉄骨階段の管理不安と、延命補修という選択肢
鉄骨階段のメンテナンスについて、こんなご不安をお持ちではないですか?
アパートオーナー様のご不安
入居者様の安全を考えるとメンテナンスは避けられないが、いずれ無くなる建物に高額な費用をかけて新品の階段を設置するのは、投資として損にならないのか?
建物オーナー様のご不安
ほぼ家族しか使わないし、建物の建て直しや解体も考えてるのに、丸ごと交換ではコストがかかりすぎる。もっと合理的、現実的な解決方法はないのか?
いきなり結論ですが、延命補修という選択肢があります。今後の維持年数に合わせて、「使えるところはそのまま使うスタンス」で鉄骨階段に強度のテコ入れをして、さらに使っていく。ということです。
グラフで考える「建物」と「階段」の関係
20年後に建物を建て替えする予定
20年後に建物の建替え計画や解体予定があるとします。建物に付属している鉄骨階段は、錆びついて老朽化が進んでいます。多くのケースで、建物本体よりも先に、鉄骨階段のような付帯設備の寿命が尽きます。
ここでオーナー様は悩みます。「でも今から階段を交換したらもったいないのでは」
以下、階段を新品に交換した場合と補修工事で対応した場合でシミュレーションします。
鉄骨階段を新品に交換した場合
20年後、建物のリセット工事の最中でも、「新しい階段」はピンピンしています。建物よりも鉄骨階段の方が寿命が長くなっている状態です。建物と階段の強度逆転現象です。
高額な工事費、工事中の騒音、一時的に階段が使えなくなる不便さといった負担をかけてまで、過剰な性能の階段を設置することは果たして正解だったのでしょうか。
鉄骨階段を補修(延命工事)した場合
これは非常にシンプルな考え方ですし、常に最適解だとはいいませんが、「建物をあと20年使うなら、階段もあと20年もつ程度に補修すれば良い」という、延命という対応策です。
20年後、建物リセット時に合わせて、階段の寿命が同期している状態になっています。結果的に、資金運用を最小限にすることができました。
補修工事の役割は「もうしばらくの安全性を保持すること」、目的は「建物の寿命に足並みをそろえる程度まで安全に使い続けられる状態を維持する」ことに設定します。
鉄骨階段の補修延命工事の実例
一見問題なさそうですが、「歩くたびにステップが揺れる気がする」とご相談をいただいた現場の鉄骨階段です。ほか、手すりなども錆びていましたが、お聞きした維持年数から逆算すれば軽微なものです。
ステップの強度不安の原因は錆びでした。マットがあるので日常生活では錆びに気付きにくいのです。
強度不安のあるステップに、上から鉄板を被せて溶接します。この鉄板がステップの代役となったので、階段の強度復旧は完了です。
マットの代わりに長尺シートを敷いて、ステップの鉄板を保護。これで15年以上の延命維持が可能になります(定期的なメンテナンスは必要です)。
この補修工事では以下のメリットが得られました
- 交換工事の3分の1程度の工事費用で済んだ
- 工事中も階段を使うことができた
- 派手な工事にならないので、近隣からのプレッシャーがほとんど無かった
建物の残りの寿命が短い場合、高額な費用をかけて鉄骨階段を新品に交換するのは非効率かもしれません。
「延命補修」の注意点:メリットとデメリット
延命補修、良い点ばかりではありません。
延命手段として工事コストを抑えた分、いくつかの副作用(デメリット)があります。無駄に強度を確保したりしない分、基本構造への依存が避けられなかったり、工事直後の美観をキープすることが難しいなど、もともとの階段を起点にした工事であるだけに、新品に比べて妥協しなければならない要素が出てきます。
下記が補修工事のメリットとデメリットです。
メリット:
- 工事費用を半額から3分の1程度まで絞れる可能性が高い
- 工事期間が短く、居住者への影響を最小限にできる
- リアルタイムで柔軟な対応ができるので施主様の意向が反映されやすい
- 「人的被害の回避」という最も重要な目的にコストを集中できる
デメリット:
- 新品に比べて、見た目の美しさは劣ることがある(錆び垂れ、床面の凹凸など)
- 鉄骨の主要構造が著しく腐食している場合は補修効果に限界がある
- 交換工事よりも、その後のリスク管理やメンテ頻度が増える
- 売却前提の場合、寿命を同期することが不利になることがある(買い手の負担になる)
人的被害の回避にコストを絞って、既存設備をベースに工事をすると、床面の不陸や塗装の乗りの悪さなどの美観や使い勝手に片目をつぶらないといけないことがあります。工事コストと工事結果は相関関係にあります。
参考:鉄設備の延命補修におけるデメリットについて
また、最初は「人的被害の回避(階段の強度延命)」という方針であったはずが、だんだん息を吹き返してくる階段を見て「もっとキレイにしたい」「さらに使い勝手がよくならないか」と、当初の方針からブレてしまうことがあります。これは費用で損をしてしまうかもしれません。
いかがでしたでしょうか。この記事では階段を中心に書きましたがベランダや廊下鉄骨などの鉄骨設備でも同じことがいえます。「建物軸」で将来を考えて、どのように資産形成をしていくのか、オーナー様の参考になれば幸いです。鉄骨補修のご相談はお気軽にご連絡ください。
要約Q&A
Q:鉄骨階段のメンテナンスを放置するとどうなる?
A:錆びると構造としての強度を失い、人的被害におよぶケースもあります。参考資料:元社員の証言から見えたアパート階段崩落:日本テレビHP
Q:交換工事と補修工事の金額差は?
A:内容によってピンキリですが、二倍から数十倍の差が出ます
Q:交換工事と補修工事の判断ポイントは?
A:維持年数、管理責任、メンテ履歴、費用対効果、など複数の要素が判断基準になります
Q:補修工事にした場合の注意点
A:既存を土台にした工事なので根本的な強度解決にならない、美観復旧や刷新は難しい等です
Q:交換工事にした場合の注意点
A:交換中は生活動線がなくなる、場合によって建築確認、建ぺい率などが絡んでくる可能性がある等です