この記事を読んでいただきたい方:
腐食の進んだ鉄階段の今後を「取り換えずに延命溶接補修」で検討されるオーナー様に、延命補修の要点とデメリットも正直にお伝えします。
鉄設備の延命補修で優先すべきこと
屋外にある鉄設備の延命補修で優先するべきは「酸化の侵攻を遅らせること」です。そして、達成するべきは「利用者の怪我(人的被害)の回避」です。
鉄は自然の素材なので放っておけば時間経過と共に「酸化」して強度を失っていきます。だから、鉄設備のご長寿のためには定期的なメンテナンスが必須。具体的には「塗装を怠らないこと(7~8年ごと)」「鉄サビで弱った強度を復旧すること」です。虫歯に例えるとわかりやすいです。放置すればするほど事態は深刻になって復旧出費も増えてしまいます。
参考:築古オーナーが知るべき「工作物責任」(楽待 不動産投資新聞)
鉄設備の延命補修で難しいところ
老朽化した鉄設備を前にして、業者としてオーナー様にご提案したいのは「鉄設備の交換」です。理由はいろいろあると思いますが、一番わかりやすいのは作った鉄設備に責任が持てるからです。交換となればゼロから設備を作ることになるので請負った工事の責任範囲が明確です。
一方、「延命補修」の場合は「誰が作ったかもわからない設備」に手を加えていくので請負範囲を明確にするのが難しいです。補強効果を既存設備の強度に依存しないといけないからです。
上記の事情から、業者が工事の効果や請負範囲、予算出しが明確な「交換工事」を提案するのは自然のことと言えます。(儲けようとかそういう意味ではなく)
ただ、交換工事がオーナー様の解決したい問題点と直結しているとは限りません。建物の残存年数を15年前後と思っているオーナー様には、新品で30年以上もつ設備は意味がなくコスパに合わないからです。
このことから、私どもは「延命補修」という選択肢をオーナー様にご提示しています。
延命補修のデメリット
先ほど書きましたが、延命補修は「誰が作ったかわからない設備に手を加える作業」です。工事費用を落とす代わりに、いくつか「片目をつぶらないといけない要素」があります。
(1)塗膜(活膜残し、内側からサビ垂れ)
鉄設備の延命のために塗装をする場合、表面に付着したサビを削る「ケレン作業」を行いますが、このとき活膜(まだ健全な塗膜)を残して死膜(機能していない塗膜)を除去するため、塗装の仕上がりにクレーターのような凸凹が出ます。結果、新品と比べて美観をやや損ないます。
また、「ケレン作業」は鉄の内部まで侵食した腐食までは除去できません。そのため、上から塗装をしたときにあとからジワっとサビ垂れが出る場合があり、こちらも美観を損ないます。
しかしながら、上記の問題は鉄設備の延命効果を損なうものではありません。
(2)防水(水たまりの可能性)
鉄骨階段や廊下の床面に使用されることが多い「モルタル床」。このタイプの設備ではモルタルの経年劣化によってクラックなどが発生して、雨水が浸入することで内部の鉄部分を腐食させます。
この状況の解決策として「長尺シート」や「塗布防水」が挙げられます。この作業をすることで雨水の浸入ルートをブロックして鉄設備に延命効果を与えます。
参考:長尺シート工事の施工解説
この工事をすると「雨水浸入をブロック」した結果、床面に雨水が残ってしまう可能性があります。左官などして水勾配処理をある程度はできますが、コストバランスがシビアな延命補修工事では「水たまり」よりも鉄設備延命を優先されるオーナー様がほとんどです。
参考:長尺シートの水たまりを解説
(3)補修していない部分の老朽化はそのまま
延命補修と新設工事(交換工事)の大きな違いは、より効率的な補修効果と費用バランスを求められるところです。気になる箇所を全部修理したら高額になってしまうから、修理対象を絞って工事を進めることになります。
そのため、修理対象から外れる部分が出てくるわけですが、この部分の老朽化の侵攻はそのままです。母体は既存の鉄設備のままなので、完全復活という成果は生み出せません。
いかがでしょうか。延命補修工事を請け負う業者として正直にお伝えしてみました。
よくオーナー様から「これで15年以上もちますか?」と聞かれることがあるのですが、そもそも一回の工事で15年以上を完璧にカバーすることは現実的にはではありません。定期的なメンテナンスをしながら、低空飛行の工事費用で維持管理することが肝心です。弊社はそこに特化した業者です。
参考:鉄骨延命工事で達成されること、達成されないこと