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長尺シート施工後の水たまりは失敗ではない?

この記事を読んでいただきたい方:
補修工事で、廊下床に長尺シートを施工したあとに稀に発生する水たまりについて、「水たまり=失敗ではなく、延命工事の目的に伴う合理的な選択肢」という、ひとつの考え方をお伝えします。

タキストロンの水たまり

長尺シート施工後の水たまりは失敗ではない?

延命補修の目的とコストバランスから「合理的な選択」として成立する、という弊社の見解を解説します。

外廊下や外階段の補修工事で、長尺シート(タキステップ・タキストロン)を施工したあと、
「前はなかったのに、水たまりができた」と感じることがあります。一見「施工ミスでは?」と思われがちですが、実は建物延命のために必要な選択の結果でもあるのです。

この記事では、「なぜ水たまりができるのか」、そして「それでも延命効果を優先すべき理由」について、施工店の立場からわかりやすく解説します。

水たまり発生までの流れ(イメージ図)

デッキプレートのサビ腐食1

長尺シートは、老朽化した床面のモルタルにできたひび割れなどから、雨水が鉄骨内部に染み込むのを防ぎます。これにより鉄骨の腐食(サビ劣化)を食い止め、建物の寿命を大きく延ばすことができます。

参考:長尺シート タキストロンQA:タキロンマテックス

廊下を保護する長尺シート

ただし、築年数のある建物では、劣化したモルタルによって、すでに不自然な勾配(不陸 / 床面の歪み)ができており、本来の水平状況が失われていることがあります。

長尺シートの水たまり

ここに、厚み2.5mm前後の防水性の高い長尺シートを敷くと、それまでモルタル内部に「逃げていた」雨水が滞留し、結果として表面に水が残る=水たまりができることがあります。

つまり、雨水が浸透しなくなった「証拠」が水たまり。鉄骨の延命という本来の目的は、確実に達成されています。

では水たまりは解決できないのか・・?という疑問が浮かぶと思います。水たまりの解消方法について、このあとご説明します。

水たまりに左官工事で対応できるが全体最適なのか?

廊下床のモルタル左官工事

もちろん、水たまりを完全に解消するには、左官工事で勾配を作り直す方法もあります。
ただし、それには次のような課題も伴います。

  • 床面の高さが上がる → ドアの開閉に支障をきたす場合がある

  • 勾配深度に左官が最適化されない → 数ミリの陥没では補修モルタルが密着しない

  • コスト増加 → 延命工事よりも費用の比重が高くなる

  • 完全な勾配管理が保証できない → 劣化状況によっては左官で解決しきれない懸念

左官工事を否定するものではありませんが、「老朽化した鉄骨を長持ちさせる」という主目的において、水たまり対策は必須項目ではないことが多く、水たまり対策にコストをさらにかけていくかはオーナ様の運営方針にお任せできる範囲となります。

上記は、弊社の見解です。すべての業者様のポリシーとは異なります。

参考:

この記事を読んでいただきたい方: タキ...
アパート共用廊下の補修工事例を解説します...

それでは、実際に長尺シートを含めた外廊下の鉄骨補強工事について、下記にご紹介します。

実践:長尺シート工事の流れ(鉄骨補強工事も含む)

アパート外階段

アパートの外階段です。階段を上がったところに廊下があります。

廊下の床面モルタルの劣化

廊下の様子です。床面のモルタルの片側が黒ずんいますね。水勾配や不陸(ふりく)によって雨水が一カ所に停滞して、モルタルに苔が生えたりします。また、周辺の鉄骨が常に湿気を含んだ状態になるのでサビ腐食の温床にもなります。結果、鉄骨廊下の強度ダウンにつながります。

廊下の床モルタルの凹み

床面の低くなっている部分をできるだけ矯正します。廊下の下からジャッキアップ作業を行い、水勾配の修正を試みます。

鉄骨廊下のジャッキアップ

工具を使って廊下を下から押し上げながら鉄骨梁(てっこつばり)を増設します。さらに、腐食したデッキプレートも部分的に補強カバーを溶接します。構造を完全に矯正することはできませんが、勾配の修正と、鉄骨の溶接補強を兼ねた効率的な工事です。

既存防水膜の撤去

ふたたび廊下の床面。劣化した防水皮膜をできるだけ除去していきます。場所によっては工具を使いつつ慎重に工事を進めます。

床面モルタル補修

大きな床の凹みや欠落については部分的にモルタル補修をします。

アパート廊下長尺シート

下地調整の工程が終わったら長尺シートを施工します。(壁側の立ち上がりはウレタン防水)以上が、廊下の長尺シート工事の流れです。

延命方針や「副産物」を、業者と相談しましょう

外通路の長尺シートタキストロン工事2鉄骨築年数のある建物において、鉄骨設備における補修の本来の目的は、

  1. 入居者様の安全確保(人的被害の回避)
  2. 鉄骨寿命の延長(腐食補修)

この2つに尽きます。限られた予算の中では、「左官による見た目の平滑性」よりも、
「鉄骨補強や耐水性の確保」に工事費を集中させる方が合理的だと思いませんか?

弊社は、解決が保証されない水たまりを、「欠点」と捉えるのではなく、延命を目的とした工事の結果としての副産物という視点でオーナ様にご説明をします。

参考:

アパート共用廊下の補修工事例を解説します...

まとめ:コストと目的のバランスを忘れないで!

長尺シート(タキステップ)

補修工事の場面では、“完璧”を求めるほどコストが膨らむ一面があります(生命保険のようなものです)。一方で、「延命」「安全」「費用対効果」というバランスを取ることが、現実的な運営計画において大切と考えます。

水たまりが多少残っていても、鉄骨がしっかり保護されていれば、構造上の安全性や耐久性には問題ありません。延命を目的とした結果、あえて「水たまり対策をしない」というのも、立派な選択肢のひとつです。

長尺シートによる対策措置は、浸水リスクを物理的に対策する工法です。もし水たまりができても、「建物を守るための延命設計」として前向きにとらえていくこともできます。弊社は、有限なコストで得られる、最大限の延命効果を追求することをモットーにしています。

上記は、弊社の見解です。すべての業者様のポリシーとは異なります。

鉄骨補修や長尺シート工事のご相談はこちらから!

要約Q&A

Q:長尺シート施工後に水たまりができました。施工ミスですか?
A:いいえ、必ずしも施工ミスではありません。築年数のある床面には不自然な勾配ができていることがあり、結果的に表面に水が残る=水たまりができることがあります。これは「耐水性が確保された証拠」ともいえます。ただし、上記水たまり現象について、業者は事前にオーナー様にお伝えしないといけません

Q:水たまりを完全になくす方法はありますか?
A:左官工事で床勾配を作り直せば、ある程度は解消できます。ただし、ドアの開閉支障・コスト増・補修モルタルの密着性などの課題が残ります

Q:水たまりを放置しても問題ないの?
A:外観的には気になるかもしれませんが、構造上の安全性には影響しません。むしろ、水たまりができることで雨水が鉄骨に侵入しなくなり、腐食防止=建物延命につながっています

Q:水たまりをどう捉えたらいいのか、専門的な視野で説明してほしい
A:水たまりは「欠点」ではなく、「延命工事の副産物」として前向きに捉えるのが合理的です。限られた予算で建物を長持ちさせるための、現実的な選択肢であると、弊社は考えます