この記事を読んでいただきたい方:
モルタル充填式鉄骨階段の防水対策について、「どこまでやればよいのか」「何が必要なのか」と悩まれている建物オーナー様に向けて、この記事では実例をもとに必要な知識と判断材料をお届けします。例えば・・
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アパートや集合住宅の鉄骨階段の維持管理に悩むオーナー様
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モルタル充填式階段の錆び・腐食対策を検討中の方
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モルタル耐水対策の費用対効果や施工グレードを知りたい方
結果からいいます。モルタル充填式鉄骨階段は、雨水が内部に浸入すると錆びによる腐食が進行しやすい構造です。耐水対策には「長尺シート(タキステップ)」の施工が延命アイテムとして主流ですが事前処理の有無によって効果とコストが大きく変わります。
目次
モルタル充填式鉄骨階段の弱点(事例)
集合住宅やアパートでよく見られる段板にモルタルが詰められた鉄骨階段は、一見すると頑丈に見えますが、構造上の大きな弱点があります。それは、モルタルに水が染み込むことで内部の鉄骨が錆び始め、時間の経過とともに階段の強度が大きく損なわれるという点です。
モルタル段板を使った階段の腐食の進行には特徴的な経緯があります。
まず、モルタル表面から雨水が浸入すると、内部の鉄板が徐々に錆び始めます。錆びた鉄は膨張し、外側に向かって圧力をかけるため、モルタルを押し上げるような力が生じます。その結果、モルタルと鉄板の間にわずかな隙間が生まれ、そこから再び浸水して腐食がさらに進む、つまり「浸水→錆び膨張→隙間拡大→浸水→錆び膨張→・・」という悪循環が起きます。こうした現象は築40年前後のアパートなどで特に多く報告されています。
腐食トラブルを回避するための防水対策の「グレード」
この問題を解決するためにタキステップと呼ばれる長尺シートを用いた耐水補修が有効です。これはモルタル表面に直接敷くことで浸水被害を物理的に大きく軽減して鉄骨の寿命を延ばす役割を果たします。
(タキステップ工事のメリットやデメリットは別ページで解説)
ただし、タキステップだけでは万全とはいえず、その効果を高めるために「事前措置」と呼ばれるオプション工法の選択も重要なポイントとなります。大きく分けて3種類のオプションに分かれます。それぞれ追加費用のかかることなので費用対効果をよく考えていく必要があります。この選択はオーナー様のお考え次第となりますので現地お打合せでもご説明させていただいております。それぞれどのようなグレードがあるのかご紹介します。
線防水、ベンチレイシート、左官。いろいろな事前措置
長尺シート事前措置その1:線防水
代表的な事前措置としてまず挙げられるのが「線防水(せんぼうすい)」です。これは長尺シートを敷く前に、モルタルの両端(左右約50~100ミリ)に防水塗料を塗布する方法です。万が一シート端部のシーリングが劣化・破断した場合でも、一次的に床面への雨水の侵入を食い止めることができます。既存の床面にひび割れや部分的な欠損が見られる場合には、特に効果的な対策といえます。
築年数のあるアパートや、長くメンテナンスを加えていないモルタル床面で端部(建物側や外側)にクラックや苔があるシチュエーションでは特におすすめの工法といえます。
長尺シート事前措置その2:ベンチレイシート
施工環境によっては「ベンチレイシート」という通気層を持つシートを併用する場合もあります。これはモルタル内部に含まれる水蒸気が行き場を失って長尺シートを押し上げ、「水ぶくれ」のような状態になるのを防ぐものです。防水措置のひとつである通気緩衝工法の効果を与えるアイテムです。
ただし、ベンチレイシートは厚みが1.6ミリあり、長尺シート(約2.5ミリ)と合わせて床の高さが4ミリ近く上がるため、現場の状況によってはドアが開かなくなるといった物理的な支障が出る可能性もあります。また、通気緩衝工法と同じくようにして水蒸気を外に逃がす工法なのですが長尺シートと床面を直接接着できないデメリットがあるため、延命補修という視点から見ると必須とは言えないと弊社は考えます。また、費用もそれなりに高額であるため特定の条件下で採用を検討する位置づけとなります。
この設備をあとどれだけ使うのか?その費用をどうやって回収するのか?という視点が大切です。闇雲に不安を煽られてあれこれ工事を進めてしまうのはもったいないです。
ベンチレイシートの厚みは1,6mmあります。長尺シートの厚みが2,5mmなので、両方敷くと床面が4mm近く床が高くなることになります。アパートによっては床面ギリギリの高さに玄関ドアがある場合があり、そうなるとドア開閉が困難になります。施工環境として問題ないかも確認しないといけません。
長尺シートの事前措置その3:左官
既存モルタル床の勾配が不良で排水が滞るケースでは、左官によって床勾配を修正する方法もあります。特に新築と違って既存の床面は経年劣化しており、水がたまりやすい状態になっていることが多いため、敷かれた長尺シートの効果でさらに水の滞留が予想される場合に効果的です。
ただし、勾配を整えるには数センチ単位で左官処理を行う必要があり、施工コストやモルタル荷重の増加といった懸念もあるため、オーナー様の判断によっては「水たまりは掃除で対応する」という選択がされるケースも多く見られます。
参考:長尺シートの水たまり(滞留)を解説
今後の腐食リスクにどこまで備えるのか?
実際の現場での傾向としては、長尺シートの施工に加え、線防水だけを取り入れるパターンが全体の9割近くを占めています。延命工事においては、すべての選択肢を網羅的に実施するよりも、費用対効果を重視した「現実的な選択」が多くなっているのが実情です。
耐水対策を「どこまでやるか」という問題は、今後の腐食リスクに対してどれだけ備えたいかというオーナー様の意向に強く左右されます。費用を多く投じれば安心度は増しますが、それが本当に価値ある投資かどうかは、建物の運用方針や維持年数、入居者の安全管理方針によって異なります。
弊社では、これまでに300件以上の鉄骨階段に関する延命工事を行ってきた実績をもとに、現場の状態やご予算、運用計画に合わせた最適なご提案を行っております。どこまで対策を施すか、迷われている場合は、ぜひお気軽にご相談ください。現地調査を通じて緊急性の高い対策と緊急性の低い対策を明確にし、無駄のない耐水工事をご提案いたします。
費用を捻出すればするほど「安心」が手に入るかもしれませんが価値のある投資と言えるでしょうか?資金管理が求められるアパート運営において、コスト重視策でいくか、包括的な計画に基づいて進めていくか・・これはオーナー様のアパート運用計画に沿ったものでなくてはなりません。
弊社はオーナー様と一緒に考えます。階段の防水方法をお気軽にお問い合わせください。
要約Q&A
Q:モルタル式段板の階段の弱点は?
A:階段(廊下)床で使用されているモルタルの経年劣化による浸水と錆び腐食です
Q:モルタル段板の補修方法は?
A:モルタル部への浸水を抑止(耐水)して鉄錆び発生を軽減することで延命補修の効果を得ます
Q:モルタル段板の耐水方法は?
A:入居者様へのご負担(通行制限)が少ない長尺シートが現在は主流なアイテムです
Q:長尺シートの製品メリットとデメリットは?
A:メリットは耐水効果、歩行音軽減、外観グレードアップなど。デメリットはシート膨張や床面の雨水対流、資産価値向上と見なされ課税対象のリスクです
Q:長尺シートのグレードは?
A:補修工事では標準モデルが使われることが9割以上ですが、上位モデルもあります。
Q:長尺シートにまつわる措置は?
A:耐水効果や長尺シート品質を維持するために線防水やベンチレイシート、左官などの方法があります。コストパフォーマンスを吟味してお選びください。
参考:鉄骨補修におけるタキステップのメリットとデメリット
参考:鉄設備の延命補修におけるデメリットについて